“KANELL” 究極のマリンボーダー(じゃね?)1

洋服のこと

本日は新ブランド「KANELL」を御紹介いたします。
カネルは1923年、フランスのブルターニュという土地で産声を上げました。
まずはブルターニュという土地とフランスのマリンボーダーの歴史について少々語らせて下さい。

ブルターニュはフランスの北西部に位置する半島で、元々は独立国として統治されていたエリアです。その時代にはイギリスとフランス、双方から度々侵略の危機に晒され、多くの戦いがあった土地でもあります。
度重なる侵略により、様々な文化が混じり合い、独特の文化が育まれ、フランスでも独自の文化を築いているエリアです。フランス人にとっても異国を感じる地域のようで、冗談交じりに「ブルターニュになんて行ったら道に迷って帰ってこれなくなるぜ」なんて事を言っちゃうぐらい他の地域とは異なる雰囲気を醸し出しています。

ここで雑学の時間ですが、日本ではシマシマのボーダーシャツを「バスクシャツ」と多くの人が呼びます。バスク地方(フランスとスペインの国境近くに位置するエリア)の漁師さん達が着ていたボーダーTシャツがその元祖とする説からついた呼び名ですが、このバスクシャツと言う言い回しはフランスではほぼ通じません。もしわかる人がいれば、よほどの日本通か、日本と頻繁に商売をしているような人たちでしょう。
フランスではこのボーダーシャツのことを”マリニエール” (Marinière)と呼びます。フランス語の marin=海 からの派生語で、船乗りさんを表すフランス語であると同時に、このアイコニックなボーダーシャツを指し示す言葉でもあります。ほとんどのフランス人がボーダーシャツの事をこう呼ぶでしょう。
と同時に、ちょっと通ぶった人達はこのボーダーシャツの事を「プルブルトン」(Pull Breton)や「ブルトンシャツ」( Breton shirt)なんて呼んだりします。ブルターニュの船乗り達が着ていたマリンボーダーのセーターやTシャツ、それこそがフレンチボーダーの元祖であるというのがフランス人にとっての一般的な通説です。そのため、このシマシマボーダーシャツをブルトン(ブルターニュの人々)のシャツと呼ぶのです。決してバスクにオリジンはありません。

さて、話は戻りますが、こちらのKANELL、1923年創業という事で、ブルターニュにおける最古のマリンブランドで、創業当初からボーダーウエアを得意としています。
ブルターニュ以外の地域に目を向ければ、社歴だけ見ればこれより古いマリンウエアメーカーもありますが、創業当時は無地のウールセーターを作っていたりと、ボーダーを商品化していた訳ではなかったりします。ボーダーマリンウエアの工業製品化という事に主題を絞れば、1923年に生まれたこのブランドは極めて源流に近い位置にあるといえるでしょう。
いずれにせよ、フランスマリンボーダーの聖地=ブルターニュで、最も古いボーダーメーカーという事は、フレンチボーダーの歴史においても大変重要なブランドであることは間違いないと思われます。

1923年に若き青年、ピエール・ブレストがまだ工業製品として浸透していなかったマリンボーダーを製品化すべく、中古の編み機を揃え、マリンウエアの製造を始めます。敏腕セールスマンでもあった彼は、作り出した商品に”KANELL”の名を冠し販売していきます。
その後、商売は順調に軌道に乗り、1927年に会社は法人化され、社名を変更。多くのブランドとのコラボレーションや、フランス海軍に商品を納入する等、多岐にわたる活動を続けていましたが、2019年、大口取引先の倒産による資金難によりブランドの継続が困難になり、一旦はその火が消えるかに思われました。。。しかし、3代目社長のミッシェルの理想のボーダーウエアを追い求める情熱の火は消えず、彼の祖父の思いが詰まったブランド「KANELL」をたずさえ、今一度理想のマリニエールを具現化すべく再起を果たし今に至ります。

まぁ例によって細々とした事を書き連ねてしまいましたが、そんなウンチクを横においておいても、今回カネルの再起動に合わせて打ち出してきたモデルは、非常に興味深いモデルであり、究極のマリニエールと呼べるものに仕上がっております。

さてここで今一度雑学の時間です。
フランスでまことしやかに語られる「これこそが元祖」と考えられているマリニエールがあります。
1800年代の中頃、フランス海軍が下級士官用に横シマのボーダーシャツを制服に採用します。白とブルーのボーダー柄は船員が海に落ちた際に一番発見しやすい柄であると言われており(本当?黄色とかのが目立たない??)、これがボーダーを制服に採用した一因とも言われています。幾ばくかの時がたち、いよいよフランス軍オリジナルのTシャツを作成する事となり、その際、フランス軍がメーカーに作成を依頼したデザインがあるというのです。
「ボディに21本のボーダー、袖には15本のボーダーを配したマリニエールをつくって欲しい」フランス海軍はメーカーに対しこんな依頼をします。21本+15本、合計36という数字は、ある時代にフランスの英雄、ナポレオン・ボナパルトが成し遂げた、対イギリス戦の連勝記録と言われています。英雄ナポレオンに敬意を払い、その栄光を受け継いでいく。。。発注されたフランス海軍のマリニエールはそんな思いが込められていました。ちなみに、ボーダーの数え方ですが、一風変わっていて、ボーダーの幅の広い部分を数えます。
メーカーはそれに準じた商品を作成しますが、ある問題に直面します。依頼された希望の数のボーダーを配したモデルをLサイズで具現化できたとしても、XSサイズにそれを転用した場合、XSサイズでは何本かのボーダーがカットされてしまい指定された数のボーダーに満たなくなってしまいます。
例えば、下記の左が一般的なLサイズにボディに21本のボーダーを配したサンプルですが、これと同じ生地を使ってXSサイズを作ろうとすると、右手の画像のように数本のボーダーが収まりきらない事になってしまい、結果21本のボーダーになりません。

効率的な生産を必須とするミリタリーウエアにおいては、サイズ毎に生地を編み直すような事はできず、このフランス海軍より依頼を受けた「真のマリニエールは」限られたサイズにおいて、若干数が作成されるにとどまりました。。。
あくまでもオフィシャルな話ではありませんが、これがフランス国内で語られる「真のマリニエール」のストーリーのひとつです。

今回、カネルから発表されたモデルはこの「真のマリニエール」を再現したものです。下の画像を御覧下さい。

上がサイズXL、下がXSの画像になります。上述の通りボーダーの数は幅の広い方を数えます。上のXLサイズを例に例えると、生成りの部分を数える事になります。どちらびサイズもボディに21本、袖に15本のボーダーが配置されていることがわかると思います。
もうおわかりだと思いますが、XLとXSではボーダー自体の幅、及びボーダーの間隔を変えています。

こうすることで全てのサイズにおいて36本のボーダーを配置することができています。単純ですが、とても手間のかかる作業で、これを具現化しているメーカーは他にはないと思います(バカバカしすぎて?)

こんなストーリーを背景に生まれたこのモデルは BONAPARTE (ボナパルト)なんて名前がついてます。このモデル、まだまだ語りどころが多いのですが、長くなりましたので次回に続きます!

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