1895年生まれのフレンチワークウエア “Le Travailleur Gallice” 2

洋服のこと

さて、前回のブログでは彼らのこだわりの生地について説明をさせていただきましたが、今回は代表的なモデルのディテールにせまってみたいと思います。

前回も説明させていただいたとおり、こだわりのフレンチモールスキンを用いた”BLEU DE TRAVAIILE”と呼ばれるコレクションは当ブランドのアイコンとなっています。その中でも、コレクションを象徴するモデルがLA VESTE と呼ばれるワークジャケットと、LE PANTALONと呼ばれるワークパンツです。

まずはワークジャケット、LE VESTEのディテールにせまってみたいと思います。
本ジャケットの特徴は極めて王道なヴィンテージディテールを有している事です。

ひとつ目は丸くラウンドした襟のシェイプ。ビンテージ市場でも見かける事ができますが、40年~50年代のフランスのワーク、及びミリタリー系のジャケットによく見られる仕様です。近代的なポイントのとがった襟ではなく、全体的に丸みを帯びたやや大きめの襟を有しています。この襟を見ただけで、好きな人なら「フランスの、そして古い物だなー」というのがわかると思います。

襟腰のつかない一枚襟なので、柔らかい生地だと、ともするとペタンとした襟になってしまいがちですが、モールスキンのような腰のある生地だと収まりもよく、前ボタンを開けても閉めても格好良いです。ただの懐古趣味ではなく、ファッションとして見ても十分魅力的な仕様です。

次なる特徴は、小さなディテールではありますが、ポケット上部の縁取りです。いわゆるポケット口の補強の当て布がまっすぐではなくV字型になっています。

「えっ、これだけ?」という声が聞こえてきそうですが、このV字型の補強布を持つワークウエアは極めて初期のモデルです。シャレオツの国フランスといえども、ワークウエアに関しては効率を重視せざるを得ず、後期になればなればなるほど無駄が省かれていきます。
ストレートの補強は折り返すだけでできますが、V字型の場合は別の布を用意して、取り付けて・・・と1工程増えますし、直線を縫うよりもV字の方が少しだけ手間がかかります。小さな手間ではありますが、ワークウエアという性質上、その積み重ねを考えると簡素化せざるを得なかったのでしょう。

上述の丸襟と合わせ、ポケット口がV字型だったら、年代物の、かつ良い仕事がなされている時代の商品であることが判断できます。
トラヴァイユール・ガリスの製品はこの古き良きフレンチモールスキンジャケットのディテールを踏襲しています。彼らが思う、現代に伝えたい、本当の、そして一番いい時代のフレンチワークジャケットです。

他にも服好きの心をくすぐるディテールがちりばめられています。
この襟もとに輝くサイズ表記のスタンプ!今時スタンプでサイズ表記してるブランドなかなかないですよね。少なくとも現行のフレンチワークブランドとしては他にないと思います。こちらも古のディテールですね。

また、これは好みがわかれるかもしれませんが、伝統のリアルワークの工場で生産をしておりますので、悪く言えばラフ、よく言えば味出しまくりのディテールも楽しめます。
このボタンホール、とても古い機械で作られています。短い動画貼り付けてみます。

なかなかこの年代のものが稼働してる工場も珍しいのではないですかね。実用に耐える事ができ、かつ最新式では出すことのできない味を醸し出します。これで作られるボタンホールはこんな感じです。

ボタンホールの中心部にほつれた生地のケバケバが見て取れるかと思います。このボタンホールは、ボタンホールの形にステッチでかがりを入れた後、メスを落として中心の生地を切ります。この方法だと中心に残った生地が写真のようにほつれて見た目は美しくありません。 正直「きたないボタンホールだな」という感想を持つかたもいます。
これとは逆に先に生地を切り、その縁をステッチでかがっていくボタンホールの作り方もあります。これだと生地の端がステッチで包み込まれ、仕上がりは綺麗に見えます。
前者を「後メス」、後者を「先メス」と呼びます。先に切るのか、後に切るのか、名前のままの違いです。トラヴァイユールガリスではあえてきたない後メスを用いています。
なぜ見栄えの悪い後メスを用いるのでしょうか?実は中心に残る生地にその答えがあります。あえて中心に生地を残し、これをクッションとすることで直接ボタンがホール周りをかがったステッチにあたる事を防いでいます。
ボタンがダイレクトにステッチにあたってしまう先メスの場合、見た目は綺麗ですがステッチがボタンに直接こすれるため、繰り返しのボタンの留め外しでステッチが切れてしまう場合があります。一か所でも切れたら最後、ステッチはほつれ、ボタンホールそのものがパンクしてしまいます。
後メスの場合はこの見た目にはきたない生地の毛羽がやさしくボタンホールを包み込んでいるのです。
何気ないディテールの差ですが、労働着が高級品だった昔のワーカーたちにとって、いかに商品が長持ちするかというのは非常に重要なファクターの一つです。些細な差が大きな違いとなって表れてくることを先人たちは知っていたのでしょう。

とはいえ、ガリスのボタンホールが特にきたない、もとい、味があるのは確かだと思います。最新の機械ですと後メスでも仕上がりはもう少しきれいになりますね。
先日国内の縫製工場のかたと話をしていると、とても興味深くこのボタンホールをご覧になり、ひとつの話を教えてくれました。とある有名なビンテージ風の商品を製作されるブランドさんから、このような「きたない」ボタンホールを再現して欲しいと依頼を受けたそうなのですが、近代の機械ではどうしてもここまで味があるボタンホールは作れないんですよねーとの事。褒められて・・・るんですよね、きっと。
まぁ、狙いであるステッチの保護という意味で言えばこれ以上ないぐらい生地の毛羽が残るので大変効果的かと。こんなところも歴史を物語るストーリーが盛り込まれた、リアルビンテージとも言えるような商品です。

次回にはワークパンツ、LE PANTALONを御紹介いたします!

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